糖尿病の患者さんの多くは、インスリン注射を絶対にやりたくないと言う強い抵抗感を持っています。患者さんにとってインスリン注射は糖尿病治療の最後の選択で、自分にはまだ関係のないことと思いたい傾向が強いようです。主治医も患者さんが躊躇することを理解しているため、たとえ有効な治療法であったとしても、強く勧めることができていないことも多いようです。その結果、インスリン注射の導入が遅れがちになり、血糖のコントロール不良による糖尿病の進行、合併症のリスク増加につながっている現実があります。
インスリン注射は毎日決められた回数を必ず打つ必要があり、一生続けていかなければならない、自分で注射をしなければならない、針を刺さなければならないというネガティブな情報に圧倒されるために、多くの患者さんに抵抗感が生まれているといえます。しかし、インスリン注射を始めた患者さんは、もっと早く始めればよかったと考えることも多く、インスリン注射のポジティブな効果を実感し、満足している患者さんが多い傾向があります。改めてインスリン注射の良い部分に目を向けていくことが、患者さんに合ったよい糖尿病治療の実現につながります。
インスリン注射を行っている患者さんに調査したところ、インスリン注射を始めたことで血糖のコントロールがよくなり、生活の改善につながったという意見が多くありました。また、糖尿病によって誘発される恐ろしい合併症を予防できるインスリン注射は何者にも変えられないという意見などが見られます。
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糖尿病にかしこく向き合い、上手にコントロールしていくためには、インスリン注射のデメリットだけにとらわれるのではなく、より広い視点から、どのようなメリットがあるのかを学び、必要に応じて適切にとり入れることが必要です。インスリン注射がない時代は、血糖を上げないために食事を厳しく制限するなどの非常に辛い治療が行われていましたが、いまはインスリン注射という簡単な方法で血糖がコントロールできるようになっています。この医療の進歩を有効に活用することが、QOL(生活の質)の高い暮らしを実現する方法の選択肢を増やしたといえます。
糖尿病の患者さんの多くがインスリン注射を躊躇するという傾向が強いことで、主治医がインスリン注射を薦めにくくなっている現実を踏まえると、医療者側からのメッセージはもちろん大切ですが、自分から積極的に治療に参加する、かしこい患者さんになるためにも、インスリン注射についてかかりつけの医師と相談する姿勢を持つことが、患者さんにとっての良い治療を行うための大きな一歩になります。
糖尿病は、一生付き合っていかなければならない病気といわれていますが、一方で、しっかりと血糖をコントロールすることで、糖尿病になる以前の生活に近い暮らしを楽しみながら健康長寿を目指すことができる、コントロールできる病気です。糖尿病でもっとも恐ろしいのは合併症であることを理解し、インスリン注射の利点を最大限に活用しながら、糖尿病に上手に向きあうことが大切です。