東京慈恵会医科大学 主任教授 宇都宮一典先生からのメッセージです。


1979年に東京慈恵会医科大学卒業後、同大学院を修了し、2001年より米コロラド大学に留学。
2002年からは東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科・助教授。2010年より現職。糖尿病専門医として、臨床に多く携わる。特に、糖尿病性腎症の治療に力を入れ、治療実績を挙げている。
糖尿病は、1型と2型の2種類の糖尿病に大きく分けられます。1型はすい臓の病気で、すい臓を自分で壊してしまう抗体が出来ることによっておこるので、原則的にインスリン療法が不可欠になります。2型糖尿病の患者さんは、以下の場合にインスリン療法が必要な状態となり、原則お薦めすることになります。
- 内服薬を長く飲んでいても、血糖値のコントロールが不十分な場合
- 血糖が非常に高く、速やかに血糖を管理する必要がある場合
- 合併症(特に腎機能の低下)がある場合
- 手術をされる場合
- 糖尿病の女性が妊娠した場合

インスリン療法と飲み薬とは、かなり異なります。飲み薬は、自分のインスリンを薬で出させ、うまく働かせることに治療の主眼があります。
一方、インスリン療法は、足りないインスリンを外から注射で補うということですから、体にとってはある意味で“やさしい”といえます。自分のすい臓の働きを温存することが可能となり、インスリン療法から離脱して、食事・運動療法、薬のみへの移行や、またインスリン治療が止められなくても、少量のインスリンでの管理ができるケースもあります。
インスリン療法をお薦めした時に、患者さんから『インスリン治療をはじめると一生続けるのか?』という質問をよく受けますが、必ずしもそうではありません。血糖のコントロールが改善すれば、すい臓の力が戻ってきて、インスリン療法を一時的に止めることも可能です。

インスリン治療に対する悪いイメージから回避した結果、コントロール状態が悪くなるケースは少なくありません。
血糖が高いにも関わらず自覚症状がない状態が長く続けば、糖尿病合併症をおこします。網膜症から失明をきたしたり、腎症によって透析を余儀なくされたり、さらには動脈硬化からおこる心筋梗塞などは患者さんの命をうばうことすらあります。したがって、インスリン療法を含めて、適正に糖尿病を管理していくことが絶対に必要です。

早期にインスリン療法を開始して、よいコントロール状態に最大限に近づけ、糖尿病の合併症を未然に防ぐ、これこそが最も重要なことなのです。